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多言語の時刻表現のいろいろ

バイリンガル、トリリンガル、クワドリンガル、マルチリンガルになって日常的に触れる言語の数が増えるにつれて、同じ概念でも言語によって表現の仕方が大きく異なることに気づきます。

母国語にはないそのような発想のバリエーションを味わえるのも、多言語学習の醍醐味の一つだと思います。

そこで、ここでは「時刻の表し方」についていくつかの言語、具体的にはドイツ語、ロシア語、カタルーニャ語、スワヒリ語をピックアップして紹介します。

時刻の表し方は実にさまざま

何語を学ぶにせよ「今、何時ですか?」、「○○行きの次の電車は何時に出発しますか?」といった時刻に関する表現を避けて通ることはできません。

そして時刻を表現する形式が母国語のそれと大きく異なる場合、慣れるのに時間がかかるかもしれません。

でも多言語学習を志す以上、そういった違いに戸惑うのではなく、頭の体操だと思って楽しむようにしたいものです。

ドイツ語の時刻表現

ドイツ語でも日本語や英語と同様に「~時30分」のことを「~時半」というように別の形で表現することができます。例えば「6時半」は「half past six」と言いますから、この点では日本語と英語の発想は同じですね。

ところがドイツ語ではこれを「halb sieben」と表現しますつまり、日本語や英語の「~時半」は「~時」の30分後を表しますが、ドイツ語の「halb…」は「…時の30分前」を表します。

つまり、ドイツ語圏では「6時半」を次の正時である「7時」に向かって「半分」と捉えるのです。

ロシア語の時刻表現

ロシア語では「6時半」を「половина седьмого」と言いますが、これもドイツ語と同じ発想です。つまり、「6時」の次の正時である「7時」の半分という表現になっています。

ただし、「седьмого」は基数ではなく序数である点がドイツ語とは異なります。「седьмого」は英語で言うことろの「seventh」に相当します。「7番目の時間の半分」と考えれば合点がいくかと思います。

さらに細かいことを言うと「седьмого」は「седьмой」の生格です。

生格は、名詞や代名詞の格の一つで、主に所有を表します。属格という呼び方の方が一般的かもしれませんが、ロシア語ではなぜか生格と言います。ちなみにこれは英語の所有格、ドイツ語やチェコ語の2格に相当します。日本語では主に格助詞の「の」で表されます。

「половина седьмого」を英語に直訳すると「half of the seventh (hour)」となります。このように時刻表現一つを取ってみても、ロシア語の論理的な言語構造が垣間見えて面白いですね。

カタルーニャ語の時刻表現

カタルーニャ語は、スペイン北東部カタルーニャ自治州を中心とする地域で話されている言葉です。

カタルーニャ語も、次の正時に端数の時間を添える形で時刻を表現するという点では、ドイツ語やロシア語と同じ発想です。

しかしながら、カタルーニャ語の時刻表現で面白いのは「30分」を「15分が二つ」と表現する点です。例えば「6時半」は「dos quarts de set」(7時台のうち、15分が二つ)と言います。

さらにややこしいことに、カタルーニャ語では、例えば「20分」を「15分と5分」、「35分」を「15分が二つと5分」と考えます。

具体例を挙げると「6時20分」は「un quart i cinc de set」(7時台のうち、15分が一つと5分)、「8時35分」は「dos quarts i cinc de nou」(9時台のうち、15分が二つと5分)と表現します。

数学的な直観力に優れている人でもない限り、カタルーニャ人に時刻を尋ねても、返ってくる答えを瞬時に把握するには時間がかかるかもしれません。

昔、僕がバルセロナに滞在していた時に出会ったペルー人の女性も、カタルーニャ語の時刻表現のややこしさに舌を巻いていました。彼女はカタルーニャ語とは極めて近い関係にあるスペイン語が母国語ですが、長年バルセロナに住んでいても「dos quarts i…」というような言い方には馴染めなかったそうです。

スワヒリ語の時刻表現

スワヒリ語は、東アフリカの国々で広範囲に話されているバントゥー系の言語の一つです。ケニアやタンザニア、ウガンダといった国々の公用語でもあります。「スワヒリ」がアラビア語で「海岸」を意味することからも分かるように、昔からスワヒリ語は、東アフリカの海岸地帯やザンジバル島、ラム島の人々によって話されてきました。

スワヒリ語が話されている地域では、イスラム暦が用いられています。そのため、一日の始まりが日没後1時間過ぎとなります。このような理由により、スワヒリ語圏の現地時間と世界標準時(GMT)との間には、6時間の時差があります。

例えばスワヒリ語では夜の7時を「saa moja usiku」と言いますが、これは文字通りには「夜の1時」という意味です。同様に朝の8時「saa mbili asubuhi」は「朝の2時」という意味になります。ややこしいですね。

ただし、「9時30分」は「saa tatu na dakika thelathini」(3時と30分)または「saa tatu u nusu」(3時と半分)と言いますから、次の正時を基準としていない点で、英語と発想が同じですね。

いろいろな国の言葉で時刻を表現してみよう

ドイツ語、ロシア語、カタルーニャ語、スワヒリ語というように多言語を「ハシゴ」しながら、時刻の表現を比較してみました。

多言語学習を志すのであれば、このような発想の違いに戸惑うのではなく、とことん楽しもうという心の余裕が欲しいものです。

些細なことかもしれませんが、いろいろな国の言葉で時刻を言えるようになるだけでも、物事の認識の仕方に幅が出てきます。世界の見え方が複眼的になると言ってもいいでしょう。

このように自分なりの多言語の楽しみ方を見つけることは、モチベーションの維持に役立つに違いありません。

マルチリンガルになるための最初の一歩を踏み出してみたいという方は、お気軽にお問合せください。

ちなみに、マルチリンガルを目指す上で推奨している最初の習得言語は「イギリス英語」や「ロシア語」です。マルチリンガルとは?3ヶ国語習得するのにおすすめの言語も教えますでその理由を詳しく書いているので、ぜひ見てみてください。

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Takuo Nakamura
著者紹介:中村卓雄(なかむらたくお)
語学講師・翻訳家・ライター
京都大学で言語学を学び、トヨタ自動車の外国特許出願明細書の英訳をはじめとして多くの言語の翻訳に従事
「体感語学の中村屋」を主催、ネイティブ発音の音声をベースにした独自のメソッドを展開
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HLI英語・ドイツ語・フランス語・スペイン語・イタリア語・ポルトガル語・オランダ語コース修了
愛知県江南市在住