「これからフランス語を学ぼう」と考えている人のなかには、フランス語の難しさが気になっている人もいるでしょう。
ここでは、フランス語の難しさについて、「発音」「アルファベット」「文法」「語彙」の観点から、僕自身の体験も交えて解説します。
目次
フランス語を習得する難易度ってどれくらい?
フランス語は習得するのが難しい言語なのでしょうか?
答えは「イエス」でもあり、「ノー」でもあります。フランス語を話題にしているので「ウィ」でもあり、「ノン」でもあります、と言うべきでしょうか。
母国語(日本語)というフィルターを通してフランス語を眺めてみると、両言語の違いにばかり目が行き、「フランス語は難しい」という印象を持つことになるかもしれません。
僕は大学の教養課程でドイツ語を履修する傍ら、「とりあえずやってみよう」という軽いノリでフランス語の初級クラスを受講しましたが、当時は言語習得の本質というものを全く理解していなかったため、「フランス語は難しすぎる、自分には無理!」と思っていました。
しかし、それからかなり長い年月が経って、フランス語の力学の中に入って、つまり母国語(日本語)の引力圏から離れてフランス語という言語に向き合えるようになってからは、当時抱いていたような「難しい」という印象は雲散霧消しました。
そもそも、ある言語の習得が簡単か難しいかという問い自体に意味はありません。
1.発音
フランス語の中でも特に難易度が高いのが発音であると言われていますが、これは幻想に過ぎません。
確かに学習の初期段階で、特定の音素(喉音のrやe、あるいは鼻母音)の発音の仕方に着目すれば、そのように思い込んでしまうのも無理はありません。
また、リエゾンやアンシェヌマンなどの規則性に戸惑いを覚える人もいるかもしれません。
最初にやるべきことは、フランス人の子供が母国語を習得する際に例外なく行っているプロセス、つまり、フランス語の音声を大量かつ「無批判に」聴き込むことです。
フランス語の音声が「正しく」聴覚器官によって捉えられて蓄積されると、その音の波の中に、フランス語を構成する各音素が包含されていることに気付きます。
つまり、発音の問題は「全体から部分へ」という流れを踏襲しないと、いつまで経っても袋小路から抜け出せません。
2.アルファベット
フランス語の音を正しく聞き取り再現できるようになった暁には、文字の学習に進むのが自然の流れであると言えるでしょう。
フランス語のアルファベットの中には「ç 」「é」「à、è、ù 」「â、ê、î、ô、û 」といった、英語にはない文字があるため、面食らってしまう人もいるかもしれません。
新しい表記に戸惑うかもしれませんが、見慣れない文字が出てくるのは、何もフランス語だけではありません。
ドイツ語や中国語、ロシア語などを勉強しても、同じようなシチュエーションは訪れます。
ですから外国語の学習においては、未知の文字との出会いを、知的好奇心を満たす絶好の機会と捉えるくらいの心構えで臨むべきでしょう。
3.文法
フランス語は文法も難解だと言われています。名詞や形容詞の性数変化、たくさんある動詞の活用を覚えるのに苦労した人もいると思います。
不規則活用動詞や代名詞を覚えるのも大変だという感想を持つ人もいるかもしれません。
また現在・半過去・複合過去・大過去・単純過去・前過去・単純未来・前未来と複数ある時制に苦しむ人もいるようです。
しかしながら、文法についてもちょっと視点を変えれば、そこまで難しく考える必要はないことが分かるでしょう。
三修社という大手の語学系出版社から刊行されている「口が覚えるフランス語」という参考書の裏表紙には、「体感語学の中村屋」の考え方にも通じる、次のような示唆に富む言葉が記されています。
「ややこしい時制も、条件法を使う表現も、代名詞の語順も…口に出して覚えてしまおう!」
要するに、スポーツで特定の動作を覚える際に体全体を使って反復練習するように、文法も体全体を使って腑に落とすことが重要です。
4.語彙学習に役立つフランス語のオンライン辞書の紹介
中級以上の英語学習者で英英辞典を使用する人が少なくないのと同様、フランス語学習においても、一定数の基礎語彙を覚えた後は、仏仏辞典を利用してみるのも悪くないでしょう。
Dictionnaire Français En Ligne — Larousse
さすが最も権威あるフランス語の辞書だけあって、各語の定義は詳細を究めており、類義語や同音異義語、用例も豊富です。発音を聞くことができるのも嬉しい限りです。
英語から意味を類推することが可能な単語も少なくないため、フランス語の語彙を甘く考える人もいるかもしれませんが、「偽の友達(faux -amis)」と呼ばれる単語には気を付けなければなりません。
つまり、英語と綴りが同じまたは酷似しているにもかかわらず、意味が全く異なる単語がフランス語には少なからずあります。
例えば英語の「prejudice」は「先入観、偏見」という意味ですが、フランス語の「préjudice」は「損害」という意味です。「先入観、偏見」に相当するフランス語の単語は「préjugé 」です。
「conscience」という英単語は「良心」という意味ですが、全く同じ綴りのフランス語の単語は「意識」という意味にもなります。ちなみに「意識」に相当する英単語は、「consciousness」です。
フランス語の発音を身につけるために
美しいが難解と言われることの多いフランス語を発音ようになるために、口を鍛えることが大事だという意見がありますが、口を鍛える以前に「耳を鍛える」ことが先決です。
フランスの耳鼻咽喉科医師であり言語学者でもある故アルフレッド・トマティス氏が発見した法則の一つに「聞こえない音は絶対に発音できない」というものがあります。この法則に例外はありません。
つまり、フランス語の音声的特徴を学習者の聴覚器官が正確にキャッチできていない状態で、いくら舌の位置や動かし方を工夫したところで無駄だということです。
そもそも、舌の位置や動きというのは、人間の発声という行為のごく一部を切り取って観察した結果にすぎません。そこには、呼気や吸気の流量・流速、横隔膜の緊張・弛緩、頭蓋骨や背骨の振動、発話者の身体的な姿勢といった要素が全く考慮されていません。
フランス語を「正しく聞き取る」ができれば、それを「正しく再現すること」は難しくありません。
では「正しく聞き取る」ために何が必要なのでしょうか?
「体感語学の中村屋」では二つの要素が重要だと考えています。
一つ目は、学習者の興味を刺激するような内容の音声を聞かせること、二つ目は、学習者の心身のバランスが保たれているタイミングを狙うことです。
また、「1日10分でも良いので、まずは毎日フランス語に触れるところから開始しましょう」といった助言をする人がいますが、このようなやり方は全くお勧めできません。
外国語の習得とは、脳神経回路(より具体的には聴覚神経回路)の再組織化に他なりません。残念ながら「10分」や「15分」といった短時間では、神経回路に不可逆的な変化を引き起こすことはできません。
「20カ国語ペラペラ」の著者である種田輝豊氏も述べているように、「少しずつ毎日」ではなく、「ガムシャラ→休み」方式をお勧めします。
フランス語は難しいという先入観を取り払えば、一気に道が開けます!
一般にフランス語は比較的発音や文法などが難しい言語と言われていますが、そのような思い込みを払拭して学習を続ければ、世界観がぐっと広がります。
フランス人の友達を作って交流したり、フランス映画やフランス語の小説を楽しんだり、シャンソンの歌唱に挑戦したり、可能性は無限大です。