ドイツ語の初級文法において最大の難関と言われているのが、接続法です。
僕の多言語学習の歴史において、ドイツ語は英語に次いでお付き合いしている期間が長い言語ですが、ドイツ語の動詞の接続法をきちんと理解できるようになるまでには相当な時間を要しました。
でも要点をきちんと押さえれば、接続法をマスターすることはそんなに難しくありません。 ここでは、ドイツ語の動詞の接続法を形式と用法という二つの側面から、例文を交えて解説しますので、最後まで読んでください。
目次
そもそも「接続法」って何?
ドイツ語の接続法には「接続法Ⅰ式」、「接続法Ⅱ式」という二つの形式がありますが、それ以前の問題として「法」とは何でしょうか?
ここで改めて整理してみましょう。
ざっくばらんに言うと、「法」とは話者のその発言内容に対する心的態度のことです。
ドイツ語の「法」には「直説法」、「接続法Ⅰ式」、「接続法Ⅱ式」、「命令法」の四つがあります。
- 直説法:話者は、叙述内容が100%真実であると考えています。
【例】
Berlin ist die Hauptstadt Deutschlands mit ca. 3,5 Millionen Einwohnern.
(ベルリンはドイツの首都で、約350万人の人口を抱えています。)
- 接続法Ⅰ式:話者は、叙述内容が100%真実ではないかもしれないと考えています。
【例】
Er sagte zu mir, dass er die Prüfung nicht bestanden habe.
(彼はその試験に落ちたと私に言った。)
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- 接続法Ⅱ式:話者は、叙述内容が100%真実ではないと考えています。
【例】
Wenn ich Geld hätte, würde ich sofort nach Deutschland fliegen.
(もしお金があったら、飛行機でドイツに行くだろう。)
- 命令法:話者は、叙述内容が100%真実となるように、相手に働きかけます。
【例】
Ruf mich an, wenn du wieder zu Hause bist.
(家に戻ったら電話してね。)
接続法Ⅰ式と接続法II式の作り方
接続法Ⅰ式は現在基本形(不定詞の語幹)に、-e-を付けて語幹を作り、これに過去人称変化の語尾を付します。
一方、接続法Ⅱ式は過去基本形に、-e-を付けて語幹を作り、これに過去人称変化の語尾を付します。
つまり、いずれの場合も-e-が接続法を表すサインになります。
言い方を換えれば、接続法Ⅰ式と接続法Ⅱ式の各人称に対する基本語尾は以下のようになります。
主語 | 基本語尾 |
ich du er/sie/es | -e -est -e |
wir ihr sie (Sie) | -en -et -en |
ではここで接続法Ⅰ式の例をいくつか挙げてみましょう。
- 「sagen」と「machen」(弱変化動詞)の接続法Ⅰ式の人称変化
ich | sage |
du | sagest |
er/sie/es | sage |
wir | sagen |
ihr | saget |
sie (Sie) | sagen |
ich | mache |
du | machest |
er/sie/es | mache |
wir | machen |
ihr | machet |
sie (Sie) | machen |
一人称単数、一人称複数、三人称複数は、直説法現在形と全く同じであることが分かりますね。
- 「geben」と「kommen」(強変化動詞)の接続法Ⅰ式の人称変化
ich | gebe |
du | gebest |
er/sie/es | gebe |
wir | geben |
ihr | gebet |
sie (Sie) | geben |
ich | komme |
du | kommest |
er/sie/es | komme |
wir | kommen |
ihr | kommet |
sie (Sie) | kommen |
やはり一人称単数、一人称複数、三人称複数は、直説法現在形と全く同じになります。
- 「sagen」と「machen」(弱変化動詞)の接続法Ⅱ式の人称変化
ich | sagte |
du | sagtest |
er/sie/es | sagte |
wir | sagten |
ihr | sagtet |
sie (Sie) | sagten |
ich | machte |
du | machtest |
er/sie/es | machte |
wir | machten |
ihr | machtet |
sie (Sie) | machten |
弱変化動詞の場合、接続法Ⅱ式現在と直説法過去は全く同じ形になります。つまり、形の上では区別できません。
- 「geben」と「kommen」(強変化動詞)の接続法Ⅱ式の人称変化
ich | gäbe |
du | gäbest |
er/sie/es | gäbe |
wir | gäben |
ihr | gäbet |
sie (Sie) | gäben |
ich | käme |
du | kämest |
er/sie/es | käme |
wir | kämen |
ihr | kämet |
sie (Sie) | kämen |
強変化動詞の過去形から接続法Ⅱ式を作ると、多くの場合、このようにウムラウトを起こします。
接続法Ⅰ式の用例:願望・要求
- 【例1】
Es lebe die Freundschaft zwischen Deutschland und Japan!
(ドイツと日本の友情万歳!)
ここでは「leben」(生きる)の接続法Ⅰ式が使われています。
Es lebe… ! は直訳すれば「~が生きんことを!」となります。
- 【例2】
Gott sei Dank!
(やれやれ、よかった!)
ここでは「sein」(ある、いる)の接続法Ⅰ式が使われています。
主語は「Dank」(1格)で、直訳すれば「神に感謝があれ!」となります。つまり、「Gott」(神)は3格ということになります。
- 【例3】
Möge der Frieden in der Ukraine so schnell wie möglich wiederhergestellt werden!
(ウクライナにおける平和が一刻も早く回復しますように!)
冒頭の「Möge」は話法の助動詞「mögen」の接続法Ⅰ式・三人称単数形です。
- 【例4】
Schreiben Sie bitte Ihren Namen auf alles, was Sie mitnehmen!
(全ての持ち物に記名してください。)
実は「あなた」(三人称複数のSie)に対する丁寧な命令文は、命令法ではなく、接続法Ⅰ式なのです。冒頭の動詞「schreiben」が直説法・現在・三人称複数と全く同じ形なので分かりにくいかもしれませんが…。
- 【例5】
Seien Sie bitte nicht so streng mit sich selbst!
(そんなに自分に厳しくしないでください。)
この場合も「あなた」(三人称複数のSie)に対する丁寧な命令文ですが、冒頭の動詞「sein」は「Seien」となっていて、直説法・現在・三人称複数の「sind」とは全く違う形なので、接続法Ⅰ式が使われているということを理解しやすいですね。
接続法Ⅰ式の用例:間接引用
- 【例1】
Der Bundeskanzler Olaf Scholz äußerte auf der Pressekonferenz die Meinung, die Abhängigkeit von Gasimporten aus Russland müsse deutlich reduziert werden.
(オラフ・ショルツ首相は記者会見で、ロシアからの輸入ガスへの依存度を大幅に削減しなければならないという見解を表明しました。)
「die Meinung」以下はショルツ首相の見解であって、発話者の見解ではありません。
ですから「この部分は引用ですよ」ということを示すために「müssen」の接続法Ⅰ式である「müsse」が使われています。
- 【例2】
Sandra fragte mich, wo und wann das Konzert von Annett Louisan stattfinden solle, und ob Tickets noch erhältlich seien.
(サンドラは、アネット・ルイザンのコンサートがいつどこで開催されるのか、そしてチケットはまだ入手可能なのか僕に尋ねた。)
これは疑問文を引用するのに接続法Ⅰ式が使われている例です。
疑問詞のある疑問文ではその疑問詞をそのまま使用し、疑問詞のない疑問文は従属接続詞「ob」(…かどうか)を使用して、枠構造の末尾に来る動詞を接続法Ⅰ式にします。
- 【例3】
Ich rief meine Freundin an und sagte ihr, sie solle sofort zu mir kommen.
(僕は彼女に電話して、すぐにこちらに来てくれと言った。)
命令文を引用する際にも接続法Ⅰ式が用いられます。話法の助動詞「sollen」が接続法I式の形「solle」になっています。
- 【例4】
Ich bat meine Freundin, sie möge mir 100 Euro leihen.
(僕は彼女に100ユーロ貸してくれるように頼んだ。)
この場合は依頼文の引用なので、命令文の引用よりも柔らかいニュアンスを出すために、話法の助動詞「mögen」の接続法Ⅰ式「möge」が用いられています。
接続法Ⅱ式の用例:非現実
- 【例1】
Wenn ich jetzt Zeit hätte, würde ich gern mit dir ins Kino gehen.
(今時間があったら、喜んで君と映画を観に行くんだけど。)
非現実の仮定を表す場合、「もしも…だったら」という前提部分にも、「…なのに」という帰結部にも接続法Ⅱ式を用います。
- 【例2】
Wenn ich letzten Sonntag Zeit gehabt hätte, wäre ich gern mit dir ins Kino gegangen.
(先週の日曜日に時間があったなら、喜んで君と映画を観に行ったんだけど。)
過去の事実に反する仮定を表す場合は、動詞の過去分詞+助動詞「haben」または「sein」の接続法Ⅱ式を用います。
- 【例3】
Was möchten Sie trinken?
(お飲み物は何になさいますか?)
レストランで席に着いたときやパーティーに招待されたときに耳にする定番の表現ですが、話法の助動詞「mögen」の接続法Ⅱ式「möchten」は非現実が転じた婉曲表現、つまり丁寧な表現と解釈できます。
- 【例4】
Ich wäre um ein Haar von einem Auto überfahren worden.
(私はもう少しで車に轢かれるところでした。)
このように危うく実現するところだった非現実も、接続法Ⅱ式で表現します。
- 【例5】
Er verhält sich immer so, als wäre er betrunken.
(彼はいつもあたかも酔っ払っているかのように振る舞う。)
非現実の含みを持った「あたかも…であるかのように」という表現にも、接続法Ⅱ式が用いられます。「als」以下の主語「er」と動詞「wäre」が倒置されていることに注意してください。
接続法Ⅰ式を接続法Ⅱ式で代用する場合:間接引用
- 【例】
Laut Augenzeugenbericht hätten die Bankräuber alle in der Bank aufgefordert, sich auf den Boden zu legen.
(目撃者の証言によれば、銀行強盗たちは行内にいる全員に床に伏せるよう要求した。)
強変化動詞以外の場合、一人称単数、一人称複数、三人称複数に対して、直説法現在形と接続法Ⅰ式は同形になります。
したがってこのままでは、他人の発言の引用であることを示せません。
このような場合に限り、接続法Ⅰ式の代用として接続法Ⅱ式を用います。
接続法も「習うより慣れろ」で攻略しよう!
以上、ドイツ語の接続法についてまとめてみました。
慣れないうちは少し分かりにくいかもしれませんが、接続法Ⅰ式もⅡ式も「-e-」というサインを含む点は共通していますし、各々の形式が使われている用例にたくさん触れて、パターン毎に整理すれば、それほど難しくないことが分かるでしょう。
ドイツ語を読むにしろ書くにしろ話すにしろ、接続法は避けては通れない関門なので、じっくりと取り組んでみてくださいね。