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英語の発音学習で挫折する理由
「英語の発音を上達させたいけれど、なかなか成果が出ない……」
そう感じて、発音学習に行き詰まってしまう方は少なくありません。特に、日本人は英語の発音習得に苦労すると言われています。一体なぜ、私たちは発音学習で挫折してしまうのでしょうか?
タイトルには便宜上「ネイティブに近づける」とか「上手に発音する」と書きましたが、母国語の発音と丁寧に対比していけば「ネイティブに完全に同化する」ことも可能です。
また、逆説的な言い方になってしまいますが、「上手に発音する」の「上手に」に執着しない方が、結果的に「上手に」なります。
「才能」と「年齢」の壁に阻まれる?
英語の発音学習において、「自分には才能がない」「もう歳だから……」と諦めてしまう方がいます。確かに、幼少期に比べて、大人になってから新しい言語の音を聞き分けたり、発音したりできるようになるには時間がかかります。しかし、だからといって、ネイティブのように発音することが不可能なわけではありません。
脳科学の観点から見ると、大人の脳にも「可塑性」と呼ばれる、経験によって変化する能力が備わっています。つまり、正しい方法でトレーニングを積めば、大人になってからでも母国語以外の言語の発音を身につけることは十分に可能です。
間違った学習法を続けている
英語の発音学習で挫折する原因の一つに、「英語は一枚岩ではない」という事実を忘れてしまっていることが挙げられます。
英語は一枚岩ではありません。つまり明確な境界や明確な法則のある統一された体系ではないのです。日本の人たちは英語という言葉をいろいろな意味で間違って使っています。英語を話せるようになるとはどういうことなのかを画一的に考えるという罠に無意識に陥ってしまっています。英語はそれを話す誰とでも100%コミュニケーションできるようなきっちりした体系ではありません。
「イギリス英語の悪口雑言辞典」アントニー・ジョン・カミンズ著(東京堂出版)より引用
世界で話されている英語には🇬🇧 イギリス英語、🇺🇸 アメリカ英語、🇦🇺 オーストラリア英語、🇨🇦 カナダ英語、🇮🇳 インド英語など、実にさまざまな種類の英語があります。
論より証拠。次の英文を各ネイティブスピーカーに読み上げてもらいましょう。
It would not be an overstatement to assert that English holds paramount importance in today’s world, especially in the realm of intercultural communication. Undoubtedly, learning English paves the way for self-discovery and significantly enriches your inner world.
【日本語訳】
今日の世界、特に異文化コミュニケーションの分野において、英語が決定的に重要な位置を占めていると断言しても過言ではないでしょう。英語を学ぶことによって自己発見の道が開け、自分の内面の世界が著しく豊かになることに疑いの余地はありません。
🇬🇧 Ryan(イギリス人男性)
©ondoku3.com
🇬🇧 Mia(イギリス人女性)
©ondoku3.com
🇺🇸 Jason(アメリカ人男性)
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🇺🇸 Jenny(アメリカ人女性)
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🇦🇺 William(オーストラリア人男性)
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🇦🇺 Natasha(オーストラリア人女性)
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🇮🇳 Prabhat(インド人男性)
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🇮🇳 Neerja(インド人女性)
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いかがですか? 英語の発音と言っても実にさまざまなバリエーションがあることがお分かりいただけたと思います。
ここでは話を簡単にするために、🇬🇧 イギリス英語と🇺🇸 アメリカ英語に限定して説明します。
🇬🇧 イギリス英語と🇺🇸 アメリカ英語では、パスバンド(優先的に使われる倍音の周波数帯)が大きく異なります。
つまり、イギリス人が英語を発音するときと、アメリカ人が英語を発音するときとでは、身体の使い方が異なるのです。
スポーツに例えるならば、テニスとバドミントンほどの差があると言っても過言ではありません。
参考文献: 「トマティス流最強の外国語学習法」村瀬邦子著(日本実業出版社)
参考文献: 「トマティス流最強の外国語学習法」村瀬邦子著(日本実業出版社)
生け花や茶道や武術を習う場合にどの流派を選ぶのかが重要であるのと同様に、自分がどの英語の発音を目指すのかが定まっていないと、効果的な発音習得につながらないのは自明の理でしょう。
また、闇雲に英語を聞き流したり、発音記号を暗記しようとしたりしても、大した成果は得られなかったという経験をお持ちの方は少なくないのではないでしょうか?
ネイティブの発音を効果的に習得するためには、科学的な根拠のある方法を実践することが重要です。
英語発音を効果的に学ぶために知っておくべきこと
それでは、英語の発音を効果的に習得する方法を見ていきましょう。
前述したように、脳は経験によって変化する「可塑性」を持っています。新しい言語に触れる、より具体的には、新しい言語を傾聴することで、脳内に新たなネットワークが構築され、発音に必要な筋肉や神経回路が発達していきます。これを継続的に実践することによって、脳はよりネイティブ同様の発音を処理できるようになるのです。
発音学習に最適な時期
一般的に、外国語の発音習得は幼い方が有利だと言われています。しかし、だからといって、大人になってから発音を習得することが不可能というわけではありません。大人になってからでも、幼児が母国語の発音の仕方を学んだプロセスを丁寧に踏んでいけば、ネイティブと比べて遜色のない発音を身につけることができます。
モチベーションを維持するには
発音を習得する過程においても、モチベーションの維持は非常に重要です。脳科学的には、小さな目標を達成するたびにドーパミンが分泌され、学習意欲の向上につながるとされています。発音の練習においても、声色やイントネーションが変化したなどといった達成感をこまめに味わうことで、モチベーションを高く保ちながら練習を継続することができるでしょう。
効果的な発音習得の鍵
ここでは、効果的な発音習得の鍵を6つご紹介します。
徹底的に対比して傾聴する
英語の発音を効果的に学ぶためには、耳をそばだてて聴く(傾聴する)ことが何よりも大切になります。
私たちの言語には、耳が聴き取ることのできない未知の音の響きは含まれていない。聴き取れない音は、例外なく声に出していうこともできないからである。このことから、「音声には、耳に聞こえる倍音しか含まれない」という公式が成り立つ。
「人間はみな語学の天才である」アルフレッド・トマティス著(アルク)より引用
「傾聴する」は「深く聴く」と言い換えることもできます。そのためには、ヘッドホンまたはイヤホンを使用することが絶対に必要です。また、使用するヘッドホンまたはイヤホンは高品質であればあるほど効果的です。
売上を伸ばしたいがために、お手軽さを謳って「聞き流す」という言葉を多用する出版社や語学学校もありますが、騙されてはいけません。主体的な意志をもって聴く(listen)ことでしか、脳内に新たな言語のネットワークを構築することはできません。
お勧めしたいのは、母国語(多くの読者の皆さんにとっては🇯🇵日本語)と英語(🇬🇧イギリス英語または🇺🇸アメリカ英語など)が交互に録音されている音声教材を積極的に活用することです。
これによって母国語と英語の発音の違いを、理屈ではなく感覚的に体得することができます。
このような音声教材には「日本語音声が収録されているので意味が分かる」という副次的なメリットもありますが、最大のメリットは、互いに独立した二つの言語のパスバンド(優先周波数帯)を切り替えるコツを身体に覚え込ませることができるという点です。
言語の音楽的要素に意識を集中する
人間が発する言葉はすべて感情を伴っています。そのような感情の部分を担うのが、声色、息づかい、旋律(メロディー)、拍子(リズム)、休止(ポーズ)といった言葉の音楽的要素です。
幼児がどんな言葉でも簡単に習得するのは、知恵を使わずに、感情に直接訴えるこれらの音楽的要素を敏感に知覚して取り込むからです。
音楽において休符は音符と同じくらい重要な意味を持っています。
人間の発話においても、単語と単語の間の何も音が発せられていない瞬間は、言語学の分野や学校の英語教育の現場ではあまり重要視されませんが、そこには直前の単語を発音した後の余韻であったり、次の単語を発音するための準備であったり、話者の「息づかい」が確実に宿っています。
知恵を使わない=馬鹿になる
英語(他の外国語においても)のネイティブ発音を習得する際に、音声学や発音記号を学ぶ必要はまったくありません。
「音声に関する知識を持っていること」と「音声を知覚して再現すること」は、完全に別物です。
むしろ、大人の外国語学習者の場合、音声学などの知識をこねくり回して、母国語とはパスバンドの異なる言語の音を「頭で理解しよう」とするから、いつまで経っても「体全体で感じる」という段階に達しません。
もちろん、将来言語学者になることを目指すのであれば、音声学や発音記号は学んだ方が良いでしょう。
しかし、それは言語の習得とは別の話です。
日本人なら基本的に日本語を自由自在に話すことができますが、「日本語の子音はいくつある?」と尋ねられて即答できる人が何人いるでしょうか?
体を緩める
英語の音の全体像を身体に覚え込ませるためには、身体全体の筋肉、特に首周り・肩甲骨周り・背中の筋肉が柔軟であることが重要です。
そのため、ストレッチや運動を習慣化することをお勧めします。
この場合、ランニングなどの有酸素運動よりも、筋トレのような無酸素運動がお勧めです。
母国語以外の言語(例えば英語)の発音を習得できるかどうかは、身体意識の高さと密接に関係しています。
テレビでインタビューに答えるスポーツ選手の発音が、言語の専門家と呼ばれる人たちに引けを取らないくらい自然に聞こえるケースが少なくないのはこのためです。
全体から部分へ
英語の発音を論じる場合、必ずと言っていいほど “r” と “l” の区別、”s” と “th” の区別に注意せよという話が出てきますが、これはナンセンスです。
幼児が母国語を習得する過程で、特定の音素を意識的に区別しようと努力したでしょうか?
確かにある言語を話せるようになるために、その言語の意味の最小単位である音素を区別(弁別)することは大切ですが、そのためには、その前段階として、その言語のパスバンドに入ることが不可欠です。
つまり、声色、息づかい、旋律(メロディー)、拍子(リズム)、休止(ポーズ)といった音楽的要素を感覚的に体得した後で初めて、”r” と “l” の違いや、”s” と “th” の違いがはっきりと聞こえるようになるのです。
「全体から部分へ」は、英語に限らず外国語の発音を習得する際の黄金律です。
好きな歌手やバンドの曲を一回聴いただけで、小節の数を数えたり、どこで転調が起こっているかを分析する人は殆どいないのではないでしょうか?
何度も何度も聴き込んでから、細部を理解すればいいのです。
これは言語の習得にも当てはまります。
音読
英語のネイティブ発音を習得するには、「深く聴くこと」が大前提にはなりますが、これだけでは不十分です。
「聴き取り」と「発声」は車の両輪のようなもので、一方の精度が高まるにつれて、他方の精度も高まっていきます。
お勧めの練習法は、市販の音声教材や、「音読さん」などの音声合成エンジンを使って作成した音声ファイルを活用して、再生機器の再生・一時停止ボタンをこまめに押すことによって、短いフレーズを区切りながら、ネイティブスピーカーの発音を忠実に模倣することです。
この場合、「上手い⇔下手」や「正解⇔不正解」という二元論に捉われず、ネイティブスピーカーの発話の大まかな特徴を真似するところから始めるのが良いでしよう。
母国語を習得する幼児の発話の中に喃語が現れることからもわかるように、最初から完璧な発音を目指すのは間違っています。登山で山の麓から一瞬で頂上に到達するのは、どんな熟練の登山家でも不可能です。頂上を目指して着実に進んでいけばよいのです。
自分が俳優になったつもりで、お手本とするネイティブスピーカーの「声真似をする」くらいの感覚で臨むのが理想的です。ただし、「真剣に」真似することを忘れないでください。
また、口の形や舌の位置を決して意識しないことが重要です。
特定の音素(”r” や “th” など)を発音する際の口の形や舌の位置は、その瞬間瞬間における身体の中の息の流れ(呼気・吸気)と連動して初めて意味を成すものです。
このような発声器官の複雑な動きを司っているのは、中耳の鼓膜張筋やあぶみ骨筋から伸びている神経であり、それは知恵を使って制御できるものではありません。
そもそも口の形や舌の位置が発音においてそれほど重要であるならば、海外ドラマや映画の場面に見られるように、ガムをくちゃくちゃ噛みながら、あるいはサンドイッチを口いっぱいに頬張りながら話したり、煙草をくわえた状態や前歯が欠けた状態で話したりしたら、意思の疎通に支障をきたすはずです。ところがそうはなりません。
試しに唇を思いきり前に突き出した状態で「あいうえお」と言ってみてください。そして口を思いきり横に引いた状態で同じことを試してください。
確かに多少言いにくくなるかもしれませんが、日本人であれば、口がどちらの形をしていても、日本語らしく「あいうえお」と言えるはずです。
言語の音を発音する上で口の形や舌の位置よりも遥かに重要なのは、その音の聴覚記憶のイメージが鮮明か否か、さらに言うと「音が背骨に降りているか否か」ということです。
小手先だけの発音テクニックに頼るのではなく、心身をリラックスさせてゆっくりと深呼吸をしながら、ネイティブのナレーターの声色と息づかい、その発話の旋律(メロディー)、拍子(リズム)、休止(ポーズ)に真剣に耳を傾けて真似すれば、鮮明な聴覚記憶のイメージが蓄積していきます。
そしてそのような聴覚記憶のイメージにしたがって発声しようとすれば、身体が自ずと必要な姿勢をとり、それに伴って口は然るべき形になり、舌は然るべき位置につきます。順番を逆にしてはいけません。
もちろん最初は個々の音の発音がおぼつかないこともあるでしょう。でも根気よく続けていけば、ネイティブの発話の音声的特徴が、身体に同化するのが感じられるはずです。
なお、シャドーイングは推奨しません。
ネイティブスピーカーの発話と同時進行的に発音するこの練習法では、ネイティブスピーカーの声と自分自身の声が交錯するため、前者を「声色」や「息づかい」といったレベルで深く聴き込み、後者を自分の耳で丁寧にモニタリングすることができないからです。
録音した自分の声に向き合う
音読を習慣化できた暁には、PCM録音などの録音アプリなどを使って自分の声を録音してみましょう。
録音した自分の声に違和感を覚える人は少なくありません。歌手や声優や俳優など、声を使う職業に就いている人さえ「自分の声が嫌いだった」と告白しているケースがあります。
実は僕自身、録音した自分の声を聴くのがとても苦手でした。この耐え難い違和感の正体は何でしょうか?
普段、自分が喋っている声を聴くときは、声が骨を通じて内耳に伝わる「骨伝導」と、空気を通じて耳に届く「空気伝導」の両方で聴いています。しかし、録音された声は空気伝導のみで再生されるため、普段聴いている自分の声とは異なって聞こえます。
また、自分の声に対するイメージと、実際に録音された声との間にギャップがあるため、違和感を覚えることがあります。自分の声を他人がどう聴いているかを知る機会は少ないため、録音された声が自分のイメージと一致しないことが多いのです。
確かに母国語である日本語を話すときの自分の声でさえ気持ち悪いのですから、外国語の文章を音読した自分の声の不快さは想像を絶するものがあります。
しかし、「自分の声の気持ち悪さ」を認識してその「気持ち悪さ」に正面から向き合った瞬間、脳が本格的に動き出します。
つまり、フィードバックを受けた脳が、自然に感じられる発声の仕方を目指してフル稼働します。
そして時と共に、録音した自分の声と、お手本とするネイティブスピーカーの発声とのギャップが少しずつ埋まっていきます。
最初は現実と理想とのギャップにショックを受けるかもしれませんが、これを乗り越えてしまえば、後は前進あるのみですし、何度も繰り返しているうちに「コツ」を体得することができます。
大切なのは最初から完璧な発音を目指さないことです。ご自身の声色やイントネーションが少しでも変わればしめたものです。少しずつ理想形に近づいていけば良いのです。
英語発音学習に関するよくある質問
ここでは、英語発音学習に関するよくある質問とその回答を紹介します。
Q. ネイティブのような発音は、大人になってからでも習得できますか?
A. はい、可能です。大人の脳にも可塑性があり、正しい学習方法と継続的なトレーニングによって、ネイティブの発音を身につけることができます。
Q. 発音を学ぶのに効果的な教材はありますか?
A. 市販の音声教材や映画やドラマの音声、オーディオブックなど、自分の興味や嗜好に合ったものを選んで、活用してみましょう。「好きこそものの上手なれ」という言葉があるように、英語を習得したいがためにつまらない内容の英語教材にいやいや取り組むよりも、例えばアガサ・クリスティーのオーディオブックを100回聴いたり、ビートルズのアルバムを100回聴いたりした方が、高い確率で英語の発音を身につけることができます。
Q. 発音を学ぶ上で、他に何か注意することはありますか?
A. 発音学習は、短期間で結果が出にくいものです。そのため、モチベーションを維持することが重要です。小さな目標を立てて、こまめに達成感を味わうようにしましょう。また、完璧主義になりすぎず、楽しむことを忘れずに実践を続けることが大切です。
まとめ|科学的根拠に基づいた学習法でネイティブ発音を習得しよう!
この記事では、英語のネイティブ発音を習得するための科学的根拠に基づいた学習方法をご紹介しました。発音の習得は、才能や年齢で決まるものではありません。
更に外国語をネイティブのように発音する具体的なノウハウを知りたい方は体感語学の中村屋へご相談ください。
脳の可塑性を利用する